古代ギリシャ・ローマのお風呂礼賛
お風呂愛にあふれた映画『テルマエ・ロマエ』(2012年公開)。古代ローマの浴場設計技師ルシウスを主人公に、古代ローマと現代日本のお風呂がたっぷり描かれた、このうえない風呂映画!湯の国としては当然のことながら応援しないわけには参りませんッ。
※映画『テルマエ・ロマエII』は2014年4月26日に公開
そこで、今回の特集は「テルマエ・ロマエ公開記念」と称して、映画の舞台となっている古代ローマの公衆浴場こと“テルマエ”と、ついでに古代ギリシャのお風呂をかるーくお勉強していきたいと思います。ぜひ映画の予習・復習としてお役立てください!
古代ローマ風呂に関する用語の多くは、ギリシャ語から来ているらしい。つまり、古代ローマ風呂のルーツはギリシャのお風呂にあるということ。「テルマエ・ロマエ」の舞台は古代ローマだが、風呂の歴史を知るうえで古代ギリシャは外せない。早速その実態を探ってみよう。
古代ギリシャで公共のお風呂が作られるようになったのは紀元前五世紀ころ。日本がようやく弥生時代に入ったころに、古代ギリシャではすでに風呂文化が花開いていた!風呂の歴史は思っているより深く長いのである。
古代ギリシャのお風呂には二つのタイプがあった。ひとつは「バラネイオン」と呼ばれる共同浴場。壁に“ヒップ・バス”と呼ばれる<図1>のようなくぼみがあり、そこに座って湯を浴びる、言わば腰かけ式のシャワー。これが壁一面にずらりと並んでいた。ちなみに、後に生まれたお尻をだけを温めるタイプのヒップ・バスとは全くの別物である。
<図2>のバラネイオンは紀元前三世紀のものだが、ボイラーによる熱気浴や高温室はもちろん、熱気を床下に送り込む「床暖房」も備わっていたというから驚くばかり。
もうひとつは、「ギムナシウム」と呼ばれる施設内の水浴室。ギムナシウムは、古代ギリシャ特有の“健全な精神は健全な肉体に宿る”という思想に則った施設で、<図3>のように、体育のための競技場と、教育のための講義室が一緒になった複合施設。
水浴室は、スポーツ後の汗を流す目的のため併設されていた。汗をかくとシャワーを浴びたくなるのは今も昔も変わらないようだ。ここでは、水を浴びるだけでなく、鎌のような形をした肌をかく道具で垢を刮いでいたというからびっくり。古代ギリシャ人、意外とキレイ好き!
この古代ギリシャ式の風呂文化は、そのまま古代ローマ時代へと引き継がれ、そしてさらなる進化を遂げていく……。
古代ローマの公共のお風呂と言えば、映画のタイトルにも入っている“テルマエ”※だ。テルマエが作られるようになったのは紀元前一世紀末頃。史上初のテルマエは、初代皇帝アウグストゥス時代に作られた「アグリッパ浴場」。この頃には、古代ギリシャ時代にはなかった共用の大きな浴槽が定着し、床暖房はもちろん、壁の暖房まで行われるようになる。
※ テルマエ=風呂、テルマエ・ロマエ=ローマの風呂
”テルマエ”は時代を経るごとに巨大化し、設備もどんどん充実していく。三世紀に入って作られた「カラカラ大浴場」<図4>は、一度に1,600人もの人が入浴できたという。呆れるほどの広さ!風呂の他、競技場、劇場、図書館、集会所が併設され、周囲にはカフェやレストランが立ち並んでいたという。もはや風呂と言うよりレジャーランド……。
<図4>の⑤のトリートメント室とは、スパ用語では“テピダリウム”とも言われる、肌をケアする場所。先にも触れたが、鎌のような形をした肌をかく道具で垢を刮いだり、香油を全身に塗ってマッサージを施されたり、はたまた脱毛したりと、性別問わず全身を丁寧にケアしていたようだ。何でも古代ローマの時代は、長らく“無毛の身体”がカッコいいとされていたとか。
身体の火照りをとりたい人のために、大きなプールも完備されていて、しかも、多くの部屋は床暖房!現代のスパ施設やエステサンロンと同様、いやもしかしたらそれ以上に快適な空間だったであろう。
古代ローマは水道設備が整っていたことで知られるが、その目的のひとつに、風呂用の水を確保する狙いがあったらしい。一説には、都市で使用する量の40%の水を風呂や噴水などの公共施設に回していたのだというから贅沢な話だ。古代ローマ人の風呂愛の熱さに、改めて惚れ惚れ♡♡♡
まさに、全てのお風呂はローマに通じる!
さて、古代ギリシャとローマのお風呂を学んだところで話は映画へと戻りましょう。
映画「テルマエ・ロマエ」の主人公は古代ローマ帝国の浴場設計技師ルシウス(阿部寛)。
ある日、ひょんなことから現代日本の銭湯へタイムスリップしてしまったルシウスは、思わぬ出来事に動揺しながらも、日本の風呂文化に衝撃を受けます。
その後、古代ローマと現代日本を幾度もタイムスリップしながら、古代ローマに現代日本の風呂文化を再現していくルシウス。
そのお風呂はあっという間に評判となり、時の皇帝ハドリアヌス(市村正親)によって大浴場を作るよう命じられるのですが……。
“平たい顔族”こと日本人の面々には、漫画家志望の真実(上戸彩)、その父で温泉旅館を経営する修造(笹野高史)などなど、これまたひとクセもふたクセもある人物たちが登場します。物語が進むにつれ、古代ローマ帝国と深く関わり合って行く真実の運命にもご注目!
古代ローマと現代日本を“風呂”というキーワードで結びつける!その奇抜なアイディアには古代ローマ人もびっくりしているはず。
原作のマンガは累計500万部の大ヒット。実写化にあたっては、古代ローマ人演ずる俳優たちの濃さたるや!この上なくベストマッチなキャスティングでも話題となりました。かつてないほどにお風呂をフューチャーした風呂ムービー。風呂好きなら必見です!
風呂愛にあふれています!できました、映画『テルマエ・ロマエ』
僕はかなりの風呂好きを自認しています。特に、ゆったり過ごせる銭湯が大好き。オフはもちろん、仕事がある日でも3〜4時間時間が取れるのであれば、必ずと言っていいほど行きつけのスーパー銭湯に通っています。
ただ、海外では事情が大きく変わります。僕は外国でのロケも多いのですが、以前ヒマラヤを訪れたときには、1ヶ月間風呂なし生活を経験しました。現実問題として………(つづきはこちら「湯煙コラム」でどうぞ!)
2012年4月28日(土)より全国公開が始まった、映画『テルマエ・ロマエ』。それに先立ちイタリア、ローマと「ウディネ・ファーイースト映画祭」でワールド・プレミア上映を果たし、現地でも大変好評でした。
イタリア人にとって、劇中に散りばめられた日本の風呂シーンが、エキゾチックであり魅力的に映ったようです。銭湯の番台、脱衣かご、風呂桶、そして湯上りのフルーツ牛乳…。まさに主人公ルシウスと同じく、一つひとつに感嘆の声が上がっていました。それ以上に彼らに驚かれたのは、街の銭湯でも山奥の温泉でも、日本の公衆浴場ではだれもが本当の意味で「裸の付き合い」ができること。ヨーロッパに「スパ」「テルメ」など湯治場はいくつもありますが、すべて水着着用ですからね。
映画「テルマエ・ロマエII」
2014年4月26日より公開
公式ホームページ
http://thermae-romae.jp/
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