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去年の秋、飛騨白川の方の祭りを取材しにいった帰りがけに、富山県の城端という町に寄り道した。城端と書いて、ジョウハナと読むのだが、文字どおり、昔“荒木氏”という土豪の城があった小じんまりとした城下町である。
街路は所々拡幅工事が進んでいたものの、時代劇に出てくるような趣きのある町並
が、まだ残っている。そんな一画に、「桂湯」と昔の右読みの看板を出した銭湯を見つけた。建物は函館の「稲穂湯」のような、洋風のつくりである。ちょうど開店時間の二時の少し前だったので、界隈をぐるりと歩き廻ってから、まだ他に客が誰もいない、一番湯に一人で浸った。
番台には、四、五十代くらいのおかみさんがいた。その町にも「曵山祭」という有
名な秋祭りがあるのだが、ちょっと時期がズレていたので、東京からの訪問客にびっ
くりしている。
立派な建物を誉めると、大正の初め頃の建築だという。
「この辺の大工さんが建てた、って話です」
ま、銭湯を近所の大工が建てるのは、別に珍しくない話だが、銭湯のある町の名は
「大工町」という。おそらく、大昔から大工さんたちが集まっていた町なのだろうか
ら、そんじょそこらの大工とは違う。
そんな素敵な銭湯の一番湯に浸り、近くに見つけた自販機で缶ビールを買った。陽
はおちていないが、こういう風呂上がりの昼下がり、クイッとやるビールの味はこた
えられない。フワッとした気分で、もう一度、富山の古びた城下町を歩き直した。
文/泉麻人
イラスト/花岡道子
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