大分の別府、日田、由布院、熊本の阿蘇、山鹿、宮崎、鹿児島と、南の国・九州の、その熱さ加減を若い身空で満喫した。
そのうちに短大を卒業する時が訪れて、憧れのスチュワーデスの試験を受けたが、これが見事に落ちてしまったので、そのまま、モデルクラブに残りつつ、相変わらず友人と温泉に小銭を使った。ここで一応断っておきたいのは、この「友人」というのは、彼氏ではない。そのほとんどが、モデル仲間である。
「モデル」という仕事は、見かけほど楽なものではなく、心身共に労働をする。広告という性格上、どうしても季節を先取りしなくてはならないことが多い。
まだ冬の寒さが残る時に、うすい布地の春夏ものを着て、まるで“陽だまり”のような笑顔をつくらなければならないし、そうかと思うと、うだるような夏の日に、冬もののコートを着て、汗など流せないのである。
そんな緊張をほぐすには、ロケ先の温泉が神様からのプレゼントのように、有難い。
さて、そんなモデルの仕事にそろそろ興味が持てなくなった23歳の秋、私は、フラ
リと上京する。
幸いにも、他人(ひと)に恵まれて今日まで、お仕事を頂いて、なんとか東京での暮らしができているが、私的にも、「温泉好き」を続けることも許されている。
伊豆、箱根、伊東、修善寺、熱海をはじめ、北関東の方は、甲府、長野、日光と、
なにか理由をつけては、探索に行く。
この2、3年気に入っているのは、長野の小諸の“リンゴ風呂”で、あの食用のリンゴが、いくら沢山とれるからといって、煙立つお湯一面に、リンゴが浮いていた時は、感動した。お湯につかっていると、リンゴの香りがそこらじゅうに漂っていた。昔のモデル仲間3人行った時、「ひとり、何個まで持てるか」競争した。
女3人、あれから20年もたつのに、裸のまま、両手を思いきり広げて、リンゴを1個
でも多く持とうとする無邪気な姿が、健在で嬉しかったのを、今でもおぼえている。
岡部まり/文
花岡道子/イラスト