湯の国web TOP » 湯煙コラム » きたろう「お風呂で考えた、お風呂とは?」

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 私はいわゆるお風呂の達人だ。温泉好きが高じて熱海の方に温泉付きの掘っ建て小屋を持つまでに至った。ほろ酔い加減で湯につかり、ゆれる木々や、遠くの海を眺め、果たして何を考えているのだろうか。気がつくと湯の中でうたた寝をしていることがある。何も考えていないとしか考えられない。基本的にお風呂は極めて情緒的な空間であって、思考には適していないのだろう。だいたいすっぽんぽんの裸で物を考えている絵は「裸の王様」に近い滑稽さがある。
 それではお風呂とは何か。お風呂で考えてみた。頭がぼんやりして分析する気になれない。地球との一体感みたいなイメージはどんどん広がる。温泉は大地の恵みとは良く言われるが、地下深く流れるオレンジ色の溶岩。このお湯は太古のものかも知れない。温泉でなくとも家庭のお風呂であっても、その水は空から降ってきて山から川に流れ、水道水となって風呂桶に溜まっている。壮大な時間の流れと大地に抱かれているイメージを持つと、生きている喜びが体温とともに高まってくるのです。宇宙空間から眺めなくとも、地球を肌で感じられる場所、それがお風呂です。
 次に、お風呂の利用法ですが、お湯の持っている壮大で悠久のイメージを持ち、日常生活の小さな喜びをお風呂の中に持ち込んでみましょう。私の場合の小さな喜びは、囲碁の勝利、ゴルフでニヤピン賞、巨人の勝利、変なおじさんを発見したとか、ホントに些細なことです。その喜びの曖昧な、もやもやした嬉しさを保存しておいて、お風呂でじっくり溶かしていくんです。是非試して下さい。脳の喜びが全身の喜びに変わります。
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 私は近所に大学からの友人で碁敵がいます。囲碁のレベルはほとんど同じで勝つか負けるかはものすごく精神的なもので決まります。余裕があるか焦りがでるかの紙一重の勝負。それでも勝てば王様、負ければ足軽気分。勝利すれば「もう少し勉強してくれよ」と相手をとことん見下せる一言が発することができます。この一言のため二人は必死の死闘を繰り広げるわけです。負けたときの悔しさたるや、目にうっすら涙が溜まるほどです。便所に行くといって、何度顔を洗ったかわかりません。それ程ですから、もう勝利した夜のお風呂の至福感はお分かり頂けるでしょう。喜びは100倍、地球が祝福しているような気分になれます。

 お風呂に哲学は似合いません。情緒的なるもの、とくに喜びを溶かす場所、それがお風呂です。さあ、これであなたもお風呂の達人になれます。
 
文/きたろう
イラスト/花岡道子

きたろう(タレント)
1948年千葉県生まれ。71年、俳優座小劇場解散後、風間杜夫らと表現劇場結成。79年、現メンバー大竹まこと・斉木しげるとラジカルで知的なセンスギャグユニット『シティボーイズ』を結成。81年、日本テレビ「お笑いスター誕生」でデビュー。現在、TV・映画・CM・舞台等で幅広く活躍中。






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